AIがプログラマを置き換えない本当の理由

AIはコードを書けるのに、なぜ置き換わらないのか

AIはすでに多くのコードを書けます。
簡単なアプリなら一通り生成できますし、バグ修正の提案も行います。

それでも「プログラマが不要になる」という状況には、すぐにはなりません。
理由は技術力の差ではありません。

ソフトウェア開発は、コードを書く仕事ではないからです。

多くの人が想像するプログラマの仕事は「実装」です。
しかし実際の開発時間の大半は実装以外に使われています。

  • 仕様の確認
  • 挙動の調査
  • 問題の再現
  • 影響範囲の特定
  • 修正方針の決定

AIはコードを書く能力は高いですが、これらの作業が苦手です。

プログラミングの本質は翻訳

プログラマの役割は「コードを書く人」と考えられがちです。
実際には、翻訳者に近い仕事です。

  • 人間の要求
  • 業務上の制約
  • システムの制限

これらを同時に成立させる形へ変換します。

例えば「注文をキャンセルしたい」という要望があります。
一見単純ですが、現実には複雑です。

  • 発送前か発送後か
  • 決済方法は何か
  • ポイントは使用したか
  • 在庫は戻すか
  • 会計はどう処理するか
  • 返金は即時か

この判断はコードからは導けません。
業務とシステムの両方を理解して決める必要があります。

AIは仕様が決まった後の実装は得意ですが、
仕様が揺れている状態を扱うのが苦手です。

AIが苦手な「曖昧さの処理」

実際の開発では、要件は最初から明確ではありません。

  • 言葉が曖昧
  • 担当者ごとに解釈が違う
  • 例外が多い
  • 運用で変わる

この状態で進みます。

プログラマは次の作業を行っています。

  • 質問をする
  • 仮定を置く
  • 暫定対応を決める
  • 後から修正できる形にする

つまり、曖昧な情報を扱えるように調整しています。
AIは確定した条件の下では強力ですが、前提が揺れると不安定になります。

本当に時間がかかっている作業

開発の遅延の原因は、タイピング速度ではありません。
多くの時間は次の作業に使われます。

  • 再現手順を探す
  • ログを読む
  • 運用担当に確認する
  • データを調べる
  • 誤解を修正する

例えば「たまにエラーが出る」という報告があります。
ここから始まる作業は実装ではありません。

  • どの環境か
  • どのユーザーか
  • いつ起きるか
  • 再現するか

これらを整理して初めて修正に入ります。
AIはログ解析を補助できますが、現場の情報収集は代替できません。

なぜコード生成能力だけでは足りないのか

仮にAIが完璧にコードを書けるとしても、開発は完結しません。
なぜなら、開発の問題の多くはコードの外にあるからです。

  • 運用手順
  • データ不整合
  • 外部サービスの仕様変更
  • 人間の操作ミス

ソフトウェアは単体で存在しません。
組織や業務の中で動きます。

プログラマはコードを書く人というより、
システムと現場の接続点として機能しています。

この役割は、単なるコード生成では置き換えにくい部分です。

注意点:実装の価値は確実に下がる

ただし、影響がないわけではありません。

AIによって最も変わるのは実装作業です。

  • 単純なCRUD
  • 定型API
  • テンプレート作成
  • ボイラープレートコード

これらは急速に自動化されます。
「コードを書ける」だけでは価値が下がる可能性があります。

重要になるのは次です。

  • 問題の切り分け
  • 挙動の説明
  • 修正方針の決定
  • リスクの評価

つまり書く力より、判断する力が求められます。

AIが得意な部分、不得意な部分

整理すると次のようになります。

AIが得意:

  • 実装提案
  • サンプル生成
  • 既知エラーの対処
  • ドキュメント要約

AIが不得意:

  • 要件の調整
  • 利害関係者との合意
  • 優先順位の決定
  • 不完全情報での判断

ソフトウェア開発は、後者の比重が大きい作業です。

最後に

AIはプログラマを置き換えるというより、
プログラマの仕事の中身を露出させています。

今まで「コードを書く仕事」に見えていたものの多くが、
実は調整と判断でした。

AIが進化するほど、実装は軽くなります。
その結果、残るのは人間が本来担っていた部分です。

つまりAIはプログラマを不要にする存在ではなく、
プログラマの本来の役割を明確にする存在に近いかもしれません。