DOM操作が重かった時代にjQueryが必要だった理由

jQueryは「便利」だったから普及したのではない

jQueryは単なる便利ライブラリではありませんでした。むしろ当時のJavaScriptを使う開発者にとって、使わないとまともにWebが作れないというレベルの存在でした。

現在の感覚だと信じられませんが、昔のブラウザではDOM操作は非常に扱いづらく、しかも遅く、不安定でした。
jQueryが爆発的に普及した理由は「書きやすい」ではなく、「ブラウザごとに違うJavaScriptを吸収してくれた」ことにあります。

つまり、jQueryは開発を楽にしたのではなく、Web開発を成立させたライブラリでした。

そもそもDOM操作とは何か

まずDOM操作とは何をしているのかを整理します。

DOM(Document Object Model)は、HTMLをプログラムから扱うための仕組みです。
JavaScriptでボタンを押したら文字が変わる、メニューが開く、タブが切り替わるといった動作はすべてDOM操作です。

例えば、現在なら以下のように書きます。

document.getElementById("title").textContent = "こんにちは";

しかし昔はこれが簡単ではありませんでした。

昔のブラウザは「同じJavaScript」が動かなかった

2000年代のブラウザは、現在のChromeやFirefoxのような互換性がありませんでした。
特に問題だったのは次の組み合わせです。

  • Internet Explorer 6
  • Internet Explorer 7
  • Firefox
  • Safari
  • Opera

これらはすべてDOMの実装が違いました。

例えば、要素の取得だけでも差がありました。

document.getElementById("box")

これは比較的安全でしたが、次のような操作になると問題が起きます。

document.getElementsByClassName("item");

このメソッドは古いIEには存在しません。
つまり、同じコードを書いてもブラウザによって動いたり動かなかったりするのです。

さらに深刻だったのはイベント処理です。

element.addEventListener("click", handler);

これは現在の標準ですが、古いIEでは使えません。

element.attachEvent("onclick", handler);

この2種類を分岐して書く必要がありました。
しかも挙動も完全には同じではありません。

この時点で、DOM操作はすでに「難しい」ものになっていました。

DOM操作はなぜ重かったのか

さらに問題がありました。
DOM操作そのものが非常に遅かったのです。

理由はシンプルで、DOMは単なるデータではないからです。

JavaScriptの変数はメモリ上の値です。
しかしDOMは違います。

DOMを書き換えると、ブラウザは次の処理を行います。

  • HTML構造の再解析
  • レイアウト計算
  • 描画更新

つまり、単なる代入ではなく画面の再構築が発生します。

例えば、ループで1000回要素を追加するとどうなるでしょうか。

for (let i = 0; i < 1000; i++) {
  const li = document.createElement("li");
  list.appendChild(li);
}

当時のブラウザではこれだけでフリーズに近い状態になることもありました。

jQueryが解決した「互換性問題」

ここで登場したのがjQueryです。

jQueryは次のようなコードを提供しました。

$("#box").click(function(){
  alert("clicked");
});

一見すると単なる短縮記法に見えます。
しかし内部では非常に重要なことをしています。

  • addEventListener / attachEvent の自動分岐
  • ブラウザ差異の吸収
  • イベントオブジェクトの正規化
  • thisの挙動の統一

つまり、開発者はブラウザを意識せずDOM操作を書けるようになりました。

当時の開発者にとって、これは革命でした。

jQueryが解決した「パフォーマンス問題」

もう1つ重要な役割があります。
jQueryはDOM操作を安全なタイミングで行う仕組みを提供しました。

それが有名なこれです。

$(document).ready(function(){
  // DOM操作
});

昔のJavaScriptでは、HTMLの読み込みが終わる前にDOM操作をするとエラーになります。

document.getElementById("box").textContent = "OK";

HTMLがまだ読み込まれていないと、boxが存在せずnullになります。

そこで当時の開発者はこう書いていました。

window.onload = function(){
  // DOM操作
}

しかしこれは画像などすべての読み込み完了を待ちます。
ページ表示が遅くなる原因でした。

jQueryのreadyは「DOM構造の準備完了」を検知する仕組みを持っていました。
これにより、最短タイミングで安全にDOM操作が可能になりました。

なぜjQueryは必須だったのか

ここまでを整理すると、当時の問題は3つありました。

問題 内容
ブラウザ差異 同じJavaScriptが動かない
DOMの遅さ 操作すると画面再構築が発生
読み込みタイミング 実行するとエラーになる

jQueryはこれらをすべてまとめて解決しました。

重要なのは、jQueryは「便利ツール」ではなく、ブラウザの不完全さを補う互換レイヤーだった点です。

jQueryを使わないと起きた現実

jQueryがない場合、実際のコードは次のようになります。

  • ブラウザ判定を書く
  • イベントを分岐する
  • DOMの存在チェックを書く
  • 読み込みタイミングを管理する

しかもバグの再現は「特定のブラウザのみ」です。
つまり開発環境では正常でも、ユーザー環境で壊れます。

この時代、jQueryを使っていないサイトは動かない可能性のあるサイトと同義でした。

jQueryが消えた理由

現在はほとんどの機能が標準APIで提供されています。

  • querySelector
  • addEventListener
  • classList
  • fetch

つまり、jQueryがやっていた「互換吸収」がブラウザ側に実装されました。
その結果、役目を終えたのです。

ただしこれはjQueryが不要だったという意味ではありません。
むしろ逆です。

jQueryが普及したからブラウザが統一されたという側面があります。

最後に

jQueryはコードを短くするライブラリではありませんでした。
Webが「誰の環境でも同じように動く」ための安全装置でした。

現代のJavaScriptがそのまま動くのは、ブラウザが優秀になったからではなく、過去に互換性の混乱があり、それを吸収する層が必要だったからです。

jQueryは時代遅れの技術と語られがちですが、実際にはWeb開発を現実的なものにしたインフラに近い存在だったと言えるでしょう。